オーデュボンは19世紀アメリカの「立志伝」中の人物です。なんと、北アメリカ産の鳥をぜんぶ実物大に描いた図鑑を刊行しようと夢見た人だ。でも、もともとフランス人だからアメリカに基盤がなかった。でも、奥さんの献身的な協力で夢の実現にまい進した。ヨーロッパのお金持ちのナチュラリストから予約をとるためにパリに乗り込み、デイビー・クロッケットみたいなカウボーイスタイルで講演してまわったそうだ。たくましくて野生的なので、サロンの花形になったらしい。でも、せっかく描きためた原画がネズミにかじられてしまう不運に見舞われた。オーデュボンはあきらめず、また原画を書き直して図鑑を完成させたという。
ペリーが江戸へやってきたとき、お土産に持ってきたアメリカ文明の記念品のひとつにも、この図鑑がふくまれていた。そのせいかどうかわからないが、明治時代にいちはやく出た文部省の教育錦絵の「西国立志伝」編には、なんと、オーデュボンも出てくる! ネズミにかじられた原画を発見して嘆いている場面だ。すごいものである。昔は博物学者は尊敬されたんだ。
じつは、某大学のために古今の有名な図鑑を集める大仕事の真っ最中なのだ。代表的な博物図鑑を全部そろえて目玉資料とする予定なのだが、とはいえ、まるまる完全そろいを収集すると、オーデュボンだけでもオークション価格で軽く10億円になってしまう。でも、世界で一番高価なこの図鑑をいれないと資料集成にならないので、こっちも意地にかけて入手しようとがんばった。そしてこのたび、オーデュボン実物のバラ物を二点、競り落とすことに成功したわけです。
しかし、こういう人気作品を安く落とすのは至難中の至難だった。だいいち、アメリカではオーデュボンというと本物を客間に飾ることが一家のステータスになってるほど、国民に愛されてる図鑑なのだ。おまけにバラでも一枚数十万円から一千万円もする。落札することすら命がけの仕事だったが、運よく、落ちた!
しかし、その日届いたとんでもなく巨大な木箱を見て、ぼくは呆然となった。あけるだけで大変なのだ。案の定、ねじ回し使って、ネジを一個ずつあけるのに30分を要した。ぼくは病気の最中なので、きついのなんのって・・・。
でも、ついにあけました。玄関で箱のふたをとり、めでたく版画とご対面。状態のいい図だった。これで、コレクション集成を引き渡す先方も世界に誇れる品揃えができること、うけあいだ。めでたいことである
この難作業がおわったとたん、ぼくはなんだかフラフラしてきた。おっきな木箱を玄関に置いたまま床についた。問題の木箱は十日経つもいまだ玄関をふさいでいる始末。さーー、なんとかしないといけないな。昔、巨大なミュシャの版画をオークションでおとしたときも、30kgあるとんでもない木箱がきたことがあったっけ。そのときは、運搬してきた人に電動ねじ回しでぜんぶあけてもらったのでラクチンだった。しかし、好事魔多し!!中を見たら、フレームのガラスが割れてたっけ。20万円も運賃とられた上にガラス破損かよ、と怒ったら、ドライバーの人がお詫びにといって30kgの木箱をもって帰ってくれた。あーー、今回もドライバーさんにお願いすりゃよかったなーー、と思ったものの、すでに後の祭り。
なににつけても熱帯病のせいで、とても気が回らない。到着したオーデュボンもまだ書庫に置いたままですけど、みなさんに眼福を得ていただきたく、いくつか画像を作成した。