2006年02月

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この前のテレビ収録のとき、たまたま、アメリカの田舎のオークションで落札したオーデュボン『アメリカの鳥』バラ物が、20kgもあるでっかい木箱にはいって到着した。航空便なので運賃と関税だけでもすごい金額になってしまいます。そのときちょうど、自宅で撮影やってたので、この鳥図鑑は特別出演となりました。でも、日本の人にはオーデュボンといってもなじみがないと思うけど。

オーデュボンは19世紀アメリカの「立志伝」中の人物です。なんと、北アメリカ産の鳥をぜんぶ実物大に描いた図鑑を刊行しようと夢見た人だ。でも、もともとフランス人だからアメリカに基盤がなかった。でも、奥さんの献身的な協力で夢の実現にまい進した。ヨーロッパのお金持ちのナチュラリストから予約をとるためにパリに乗り込み、デイビー・クロッケットみたいなカウボーイスタイルで講演してまわったそうだ。たくましくて野生的なので、サロンの花形になったらしい。でも、せっかく描きためた原画がネズミにかじられてしまう不運に見舞われた。オーデュボンはあきらめず、また原画を書き直して図鑑を完成させたという。

ペリーが江戸へやってきたとき、お土産に持ってきたアメリカ文明の記念品のひとつにも、この図鑑がふくまれていた。そのせいかどうかわからないが、明治時代にいちはやく出た文部省の教育錦絵の「西国立志伝」編には、なんと、オーデュボンも出てくる! ネズミにかじられた原画を発見して嘆いている場面だ。すごいものである。昔は博物学者は尊敬されたんだ。

じつは、某大学のために古今の有名な図鑑を集める大仕事の真っ最中なのだ。代表的な博物図鑑を全部そろえて目玉資料とする予定なのだが、とはいえ、まるまる完全そろいを収集すると、オーデュボンだけでもオークション価格で軽く10億円になってしまう。でも、世界で一番高価なこの図鑑をいれないと資料集成にならないので、こっちも意地にかけて入手しようとがんばった。そしてこのたび、オーデュボン実物のバラ物を二点、競り落とすことに成功したわけです。

しかし、こういう人気作品を安く落とすのは至難中の至難だった。だいいち、アメリカではオーデュボンというと本物を客間に飾ることが一家のステータスになってるほど、国民に愛されてる図鑑なのだ。おまけにバラでも一枚数十万円から一千万円もする。落札することすら命がけの仕事だったが、運よく、落ちた!

しかし、その日届いたとんでもなく巨大な木箱を見て、ぼくは呆然となった。あけるだけで大変なのだ。案の定、ねじ回し使って、ネジを一個ずつあけるのに30分を要した。ぼくは病気の最中なので、きついのなんのって・・・。

でも、ついにあけました。玄関で箱のふたをとり、めでたく版画とご対面。状態のいい図だった。これで、コレクション集成を引き渡す先方も世界に誇れる品揃えができること、うけあいだ。めでたいことである

この難作業がおわったとたん、ぼくはなんだかフラフラしてきた。おっきな木箱を玄関に置いたまま床についた。問題の木箱は十日経つもいまだ玄関をふさいでいる始末。さーー、なんとかしないといけないな。昔、巨大なミュシャの版画をオークションでおとしたときも、30kgあるとんでもない木箱がきたことがあったっけ。そのときは、運搬してきた人に電動ねじ回しでぜんぶあけてもらったのでラクチンだった。しかし、好事魔多し!!中を見たら、フレームのガラスが割れてたっけ。20万円も運賃とられた上にガラス破損かよ、と怒ったら、ドライバーの人がお詫びにといって30kgの木箱をもって帰ってくれた。あーー、今回もドライバーさんにお願いすりゃよかったなーー、と思ったものの、すでに後の祭り。

なににつけても熱帯病のせいで、とても気が回らない。到着したオーデュボンもまだ書庫に置いたままですけど、みなさんに眼福を得ていただきたく、いくつか画像を作成した。

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熱帯のマサライにやられて3週間、一向に体調がもどらないときも、コレクションは勝手にふえていく。本人がいなくなっても、わがコレクションはどうも自然にふえていくらしい。これはもはや生物といえる。

この世に二冊しかない希少限定本も、知らないうちに手元にはいった「増殖するコレクション」のひとつだ。大阪府枚方市長尾北町の伊吹工房で刊行された限定非売品。どんな本かと思いきや、荒俣宏著、伊吹博装丁になる『荒俣宏のスパイスから』というしゃれた手作り本だった。ボクは著者なのだけれど、こんな本は刊行した覚えがない。本人も知らない二冊限定本を、二冊とも送ってきた。全6ページ、内容は、スパイス一種一種にカラー挿絵と短文をつけたお話が8章、「色恋沙汰」「味な女」「純情」「我慢」などの章タイトルがある。たとえば、「嘘」と題された章は・・・・

「嘘はときとして真実よりも美しい。嘘は、はじめからこの世に存在しない真実の、愛らしい代用品である。たとえていうなら、それはチョウジ。チョウジは中国人が古代から、他人と話すときのために、口臭を消し言葉をきれいにする薬草として使った。きれいな言葉を生み出すスパイス。まるで嘘のように、効果的!」

・・・という具合で、とても気がきいている。ぼくって、こんな哲学的なアフォリズムを書けたっけ!? と、自分でもおどろくありさま。この本は、ひょっとすると伊吹博という人が創作した、架空のアラマタ本ではないのか。

著者本人が知らない著書のあとがきを見て、あっとおどろいた。これはボクが昔、秋山道男さんとつくった化粧品の販促用非売品イプサ文庫『スパイスから』という冊子を再編集したものだった。無料で配ったものだが、秋山さんと仕事をやるといつもアイデアいっぱいのおもしろ本になり、靴下のなかに本をいれた靴下史とならんで、ほとんど幻の名作といえる。伊吹さんはその一冊に図書館で出会って気にいってくれたのだが、なにせ非売品で入手が困難。それなら自分で同じもの(いや、もっと良いものを!)をつくってしまえ。
伊吹さんはその際、著者のためにもう一冊、合計二冊こしらえたのだそうな。

まるで、見知らぬ自分と出会ったかのような、不思議な感覚を味わわせてもらったこの限定本。いつかチャンスがあったら、これをさらに販売できる限定本にして売り出せたら、すてきだろうなーーー。

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地獄のニューギニア探検後、一週間経って脚がはれてきたところまでは前回報告したが、その後に38度9分の発熱があり、2日ほどなんともなくてまた38度以上の熱がでた。これはマラリアの可能性がある!しかも、脚の腫れはひどくなるばかりだ。トホホホ・・・

・・・というわけで、全身なにやら苦しくなってきたので、近くの医院に行き、感染症を検出するための血液検査をしていただいた。すると、炎症値が通常の10倍にもなっている。あわてて慈恵医大で詳しい検査をお願いした。それでもよくわからないので、血液を培養して菌やウイルスの有無を調べることになった。これから答えが出るまで一週間のあいだに、身辺整理してブログも書き込んでおかないと。

そのニューギニアで、ぼくは生物採集をしてみたかったのだ。セピック川中流から上流にわたる秘境で、生物を採集するなんていう機会は二度とないだろうから。でも、マラリア蚊とワニがうようよいるところだから、絶対に単独で行ってはいけないと現地の案内の人にいわれた。そのときふと目に映ったのが、あたりに集まっている地元の子供だった。魚と虫、なんでもいいから生かして捕ってきたらM&Mあげる、という約束で、みんなに採集を頼んだ。そうしたら夕方、たくさんの子供に取り囲まれた。みんないろんな生き物をもってきた。ヘビを取ってきた子がいるので、これはすごいと撮影の準備をしているうちに逃げられたりした。あと、山に住むきれいなカワセミを持ってきた人もいた。どうするんだ、と聞いたら、ペットにするとの答え。たしかにニューギニアの人は動物を飼うのが好きだ。泊まったホテルの庭にもちいさな動物園ができていて、卵から孵したヒクイドリと、山にいるカンムリバトが飼われていた。どちらも食糧兼ペットである。ヒクイドリは気があらくて、脚で蹴飛ばされると死ぬらしい。昔は若者が嫁をもらう場合、山にはいってヒクイドリを捕ってこないと結婚が認められなかった。新郎がヒクイドリをぶら下げて帰るまで、新婦は町外れの木の下かなんかに座って、何日も待ったのだそうだ。フウチョウも飼う人がいるが、むずかしくて長く生かせられないと聞いた。

うれしかったのは、川で「カワアナゴ」の一種を捕ってきてくれた子がいたことだ。セピック川にはかなり上流まで海水由来の魚がすみついている。でっかいサメの「ブルーシャーク」に、なんと「ノコギリエイ」もこの川で繁殖している。天然にいる魚ばかりでなく、人間が持ち込んだ魚も多い。「ボールカッター(金玉齧り)」こと南米アマゾンのピラニアが増え、同じく移入された食用魚ティラピアを食い散らかしている。川は泥どろだが、ちょうどアマゾン川とネグロ川の合流点のように、澄んだコーヒー色をした流れがぶつかるところもある。
ぼくはここでなんとか魚を採集したかったので、いきなりカワアナゴが手にはいって大喜びした。ちっちゃい雷魚みたいなやつだった。ちなみに、最終日には海岸にあるサンゴの海にも飛び込んでみた。流れが速い上に水が濁っている。だのに、少し沖へいくだけでサンゴの林がひろがっているのだ。ここで、おもしろいタイプのカクレクマノミを発見。たぶん沖縄のとは別種だろう。白い帯が乱れている。しかし、子供は水が濁っていても、どうやら魚を見分けられるらしく、あっちだ、こっちだ、と魚がいる方向を指さす。しかし、ぼくにはまったく見えない。こっちの子は、泥の川でも魚がいるかどうか見分けられるのが当たり前だ、といわれて愕然とした。みんな視力が5.0なのだそうだ!!いや、視力ばかりか聴力もすごくて、何キロも先に足音を聞いただけで、誰が帰ってくるのか即座にわかるという。じつは、聴力に関連しておもしろい事件が起こった。われわれが炎暑に倒れ、ヘリコプターで山から降ろされることになったときの話だ。機影がまったく見えないのに、みんなかすかなエンジン音を聞きつけ、いちはやくヘリの到着をわれわれに教えてくれる。一番機は、澄み渡った空のどこにも機影が見えないうちから、到着が知らされ、われわれをおどろかせた。それが競争になって、いちばんはやく聞きつけるのを争うようになった。二機目のヘリを待っていたとき、誰かが「チョッパー、来た!」と知らせた。しかし、今度はいつまで待っても空には機影があらわれない。さっきの知らせがボートのエンジン音の聞き間違いとわかって、知らせた人がみんなからものすごく責められた。ののしられた。その人は意気消沈して、いまにも川に飛び込んでしまいそうだった。きっと、聞き間違いは大恥だったのだろう。

その後も、生きものを持った子があとからあとから押し寄せた。緑色のトカゲ、ニューギニア名物の巨大ゾウムシ、かわいい緑色のイモムシ、バッタ、きれいなタマムシ、褐色のカミキリムシなどなど。トリバネアゲハを見せてくれ、と絶叫しておいたのだが、さすがにトリバネは誰ももってこなかった。みんなにM&Mを一粒ずつ手わたし、生体を撮影したあと、子供らに生きものを持って帰らせた。そうそう、マラリアを運ぶ蚊も見たいとリクエストしたのだが、蚊は捕る子がいなかった。それでも、夜になると部屋にたくさん来るので、殺虫剤をまいて殺したやつを撮影し、村びとに見せた。でも、これはマラリア蚊だ、という人と、そうじゃない、という人がばらばらで、だれも蚊の種類を見分けられなかった。あれだけマラリアに苦しんでるのに、蚊の種類をはっきり見分けてないなんて!!おかげで、ぼくはほんとに何の感染症になる可能性があるのか、今もってわからない。病院の検査結果をじっと待つだけだ。それにしても、今年は最初から、トホホ・・・、だなぁ。

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